ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 トップページ > 庄原キャンパス > 【生命システム科学専攻】動物生殖生理学研究室の博士研究員 藤内慎梧さんが2022年日本畜産学会優秀発表賞を受賞しました

本文

【生命システム科学専攻】動物生殖生理学研究室の博士研究員 藤内慎梧さんが2022年日本畜産学会優秀発表賞を受賞しました

印刷用ページを表示する 2022年9月27日更新

県立広島大学 大学院総合学術研究科動物生殖生理学研究室(PI 山下泰尚 准教授)に所属する博士研究員(日本学術振興会特別研究員PD)の藤内慎梧 博士(生命システム科学専攻修了生)が,2022年9月14-17日に開催された日本畜産学会第130回大会で優秀発表賞を受賞しました。

【発表題目】 「ブタ卵胞液中のTF濃度を基盤とした2ステップ培養(preIVM-IVM)による新規IVM法の開発」

​[解説]

 家畜の効率的生産に重要な体外成熟培養(In vitro maturation; IVM)法は,体外で未成熟な卵子を受精可能な状態に成熟させる技術です。IVM法により作出される体外成熟卵子は精子との体外受精を行い,着床前の胚盤胞を得ることにより,家畜生産の効率的生産に寄与すると考えられています。しかし,IVMにより作出される胚盤胞の割合は,体内で作出されるそれに比べまだまだ低いのが現状です(20%程度)。動物生殖生理学研究室では,このIVMによる低い胚盤胞率の原因の一つには,IVMに用いる卵子が4-7mmの発育段階の卵胞から採取しているにも関わらず,卵胞発育環境を考慮せず,直接排卵環境を模倣したIVMで培養する点にあると考えています。体内では,卵胞発育期の顆粒層細胞へのFSH刺激によりCyp19a1遺伝子発現の亢進に伴いエストロゲン産生が増大し,増殖因子(Ccnd2)の遺伝子発現を増加させ排卵直前卵胞が形成されること,排卵直前卵胞にLHが作用するとEGF-like factorが作用し卵丘細胞の膨化因子(Has2,Ptx3,Tnfaip6)の発現が増加し,卵丘膨化や卵成熟が誘導されることが知られています。動物生殖生理学研究室では,卵胞発育期の卵胞液組成をプロテオーム解析に供した結果,鉄輸送タンパク質として知られるトランスフェリン (TF)が著しく蓄積することを見出しました。本研究では,ブタ卵胞液中のTF量を調べ,これを反映させたpreIVMとIVMによる新規IVM法の開発を試みました。
 本研究では,まず直径1-3mm,4-7mm,8mm<のブタ卵巣からの顆粒層細胞と卵胞液,卵巣を採取し,顆粒層細胞のTf mRNA発現,卵胞液のTF量および鉄量を調べました。その結果,顆粒層細胞においてTf mRNAは発現していないにも関わらず,卵胞サイズの拡大に伴い,高濃度にTFと鉄が蓄積していることが明らかになりました。またTF受容体 (TFR1) のmRNAとタンパク質発現は顆粒層細胞で高い値を示し,この局在はCOCと顆粒層細胞に認められました。さらに実際に鉄が顆粒層細胞内に鉄が取り込めるのかを調べるために,鉄を包合したTF(Holo-TF)を添加した培地で4-7mmの顆粒層細胞を培養し,鉄の局在を赤色の蛍光を示すFeRhoNox-1で調べたところ,Holo-TF添加時に細胞内に鉄を示す蛍光像が認められました。これらの結果から,発育段階のブタ卵胞はTFと鉄が蓄積し,この時の顆粒層細胞は,鉄を取り込むことができることが明らかになりました。
 次に,卵胞発育環境を模したpreIVMに卵胞液中のTF量を添加して培養すると,Cyp19a1遺伝子発現が亢進し,エストロゲンが産生されることで細胞増殖因子(Ccnd2)が発現し細胞増殖が活性化していました。さらに,preIVMにTFを添加して培養後,IVMにTFを添加せずに培養することで,卵丘膨化および卵成熟を十分に誘導し,胚盤胞の作出率を大幅に向上させることに成功しました。
 以上の結果から,卵胞発育期の卵胞液中にTFが高濃度蓄積することを明らかにしました。さらに,卵胞発育期に蓄積したTF量をpreIVMに添加し,その後続けてIVMにTFを添加せずに培養するという新規IVM法の開発に成功しました。

 第130回日本畜産学会では,家畜増産効率の向上や優良家畜増産の効率化が期待できる家畜卵子の新しいIVM法を開発することを成功した点が高く評価され,日本学術振興会特別研究員(PD)であり,当研究室の博士研究員の藤内慎梧君が優秀発表賞を受賞しました。

 

動物生殖生理学研究室 准教授 山下泰尚

 

藤内君

優秀発表賞を受賞した藤内博士